MPN 常任幹事 篠原 猛
●著作権法第九十五条 (商業用レコードの二次使用) のお話
| 著作権法第九十五条 放送事業者及び有線放送事業者 (以下この条及び第九十七条第一項において「放送事業者等」という。) は、第九十一条第一項に規定する権利を有する者の許諾を得て実演が録音されている商業用レコードを用いた放送又は有線放送を行った場合 (営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けずに、当該放送を受信して同時に有線放送を行った場合を除く。) には、当該実演 (第七条第一号から第六号までに掲げる実演で著作隣接権の存続期間内のものに限る。次項から第四項までにおいて同じ。) に係る実演家に二次使用料を支払わなければならない。 |
「放送事業者及び有線放送事業者が、商業用レコードを用いた放送や有線放送を行った場合、当該実演に係る実演家に二次使用料を支払わねばならない」と言うのがこの法律の内容ですが、もう少し詳しく説明しますと、ここで言う「商業用レコード」とは、「市販の目的をもって製作されるレコードの複製物をいう」と定義され、更に、「レコード」とは、「蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの (音をもっぱら影像とともに再生することを目的とするものを除く。) をいう」と定義されていますので、「商業用レコード」とは、録音物に限られることになり、影像を伴う DVD のような録画物は「商業用レコード」には該当しません。言い換えれば、一般のレコード店などで販売されている音楽 CD などがこれにあたります。
つまり著作権法第九十五条第一項の内容は『市販の音楽 CD などを用いて放送または有線放送を行った放送事業者及び有線放送事業者は、その CD などへの録音に参加している実演家に、二次使用料を支払わなければならない』ということになります。また、この権利は放送などへの利用を差し止めたりすることはできませんが、その「使用料を請求できる権利」として「報酬請求権」と呼ばれています。
~~許諾権と報酬請求権~~
私たち実演家の「財産権」には、他人が無断で利用 (録音・録画やインターネット送信など) することを止めることができる権利としての「許諾権」と、他人の利用を止めることはできないが、CD などが放送や貸レコードなどに利用された場合に報酬 (使用料) を請求できる権利としての「報酬請求権」があります。
前回お話しした録音権・録画権を始めとして放送権、有線放送権、送信可能化権、譲渡権、貸与権などが実演家の持つ「許諾権」であり、この「商業用レコード二次使用料請求権」や「期間経過商業用レコード (発売後 1 年は貸与権が認められているので、発売 2 年目以降 49 年間) の貸与 (貸レコード使用料) 」などが「報酬請求権」ということになります。
この著作権法第九十五条は、第一項では「当該実演に係る実演家に支払わなければならない」とあり、実演家個人の権利としながら、第五項では、「文化庁長官の指定団体のみが行使することができる」としていて、権利そのものは個人にあるが、権利行使は指定団体が行うという非常に解りにくい構造になっているのです。
何故このようになったかは、この法律の成立過程にまで遡ってみる必要があります。明治 32 年 (1899 年) に制定された旧著作権法から現行の著作権法に全面改正されたのは、1970 年 (昭和 45 年) のことですが、この現行法における実演家の権利は、ローマ条約をモデルとしていると言われていますので、つぎに「ローマ条約」とはどのような条約なのか調べてみることにしましょう。
●実演家の権利とローマ条約
この条約は、正式名称を「実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約」と言い、一般に「実演家等保護条約」、「隣接権条約」又は「ローマ条約」と呼ばれ、1961 年に、ILO(国際労働機関)、ユネスコ、ベルヌ同盟の三機関の共催によりローマで開催された外交会議において作成されました。この条約では、実演家、レコード製作者、放送事業者に対して付与すべき保護をおおよそ次のように規定しています。
1. 実演家に対して、許諾を得ない実演の放送、録音・録画の防止
2. レコード製作者に対して、レコードの複製権の付与
3. 放送事業者に対して、放送の再放送権、録音・録画権の付与
4. 実演家及びレコード製作者に対して、商業用レコードの放送についての二次使用料請求権の付与
ローマ条約 (実演等保護条約) 第一二条 (レコードの二次使用)
商業上の目的のために発行されたレコード又はその複製物が放送又は公衆への伝達に直接使用される場合には、単一の衡平な報酬が、使用者により実演家若しくはレコード製作者又はその双方に支払われる。当該報酬の配分の条件については、当事者間に合意がない場合には、国内法において定めることができる。 |
●機械的失業 (技術的失業) という考え方
1877 年トーマス・エジソンによる蓄音機 (フォノグラフと命名) の発明以降、1887 年には、エミール・ベルリナーにより円盤式レコード (グラモフォンと命名) が発明され、更に 1900 年代に入るとレコードの商用化に益々拍車が掛かることとなり、多くのレコードが世に出るようになりました。
そして次に起こったことは、出回ったレコードが放送事業者によって放送されるようになって行ったのです。同時に不特定多数の人々が受信できる「放送」という手段でレコードが流れるということは、その時点で実演家の出演の機会を一遍に使い切ってしまうようなもので、放送事業者は、レコードを使用しなければ、生の実演を使用した番組を作ったはずであり、元々その分だけ実演家に出演チャンスがあったはずです。
更に、レコードを放送することで、使用されたレコードに録音されている実演家だけでなく、他の実演家の実演のチャンスまでも奪うことになります。
こうしたことを指して「機械的失業」或いは「技術的失業」などと言っています。原因の全てが技術進歩によるものとは言い切れませんが、当時の実演家が体感した急激な環境の変化は、私達の想像を遙かに超えたものであったに違いありません。
さて、この話を現代の私達に置き換えてみると、この当時の実演家が直面した環境と、今日私達が置かれている状況は、どこか似ているようにも思えます。
今日、地球規模で膨張するコンテンツ産業が、加速度的な環境の変化をもたらし、実演家の権利など何処かに吹き飛んでしまいそうな勢いとなっています。
コンテンツの利用、伝達、複製、保存、等々において、ハード面とソフト面の両方からの進歩に挟み撃ちにあっている様なもので、現在を生きる我々にこそ、この問題が内在していると言ってよいのかも知れません。
この話の時代に準えながら現代に置き換えれば、レコードという複製技術の誕生から広範な伝達手段としての放送への使用ということが、今では差し詰めフラッシュメモリまたは HDD とウェブキャスティングと言ったところでしょうか。
何れにしても前述の「機械的失業」 (技術的失業) の背景に酷似した問題が我々権利者はもとより実演家全体にまでも降りかかっていると言ってよいと思います。正に現代の「機械的失業」か?
前述の ILO(国際労働機関) は、1930 年頃から、特に複製技術の発達に伴った音楽家の失業に関する問題を研究し、常にこの問題に関心を持っていたようです。ローマ条約に於ける ILO 草案は、保護水準も高く、技術進歩に伴う実演家の「機械的失業」 (技術的失業) の救済ということに重点を置いたものでした。
こうした流れを引いて、我が国の著作権法第九十五条は、実演家の「機械的失業」 (技術的失業) を救済するという考え方を根底に置いた立法趣旨となっているのです。
ここで先ほどお話しした第九十五条第一項と第五項の件を思い返してください。第一項で実演家個人の権利であるとしながら、第五項では指定団体のみ行使することができるとした、一見解りにくい構造となっている理由がここにあるのです。権利そのものは個人にあるとしながら、その権利行使と運用を団体が行うことで、実質的に実演家全体の「機械的失業」の救済という立法趣旨を実現する意図があったと思われます。
●二次使用料配分の変遷
前にも少し触れましたが、第九十五条第五項の規定によって「社団法人日本芸能実演家団体協議会 (芸団協) 」が文化庁長官の指定団体として、放送事業者等との協議 (交渉) によって「商業用レコード二次使用料」の額を定め、徴収分配にあたっています。
二次使用料の徴収分配が行われるようになった当初 (1971 年) から 1998 年まで、部門別・団体分配として芸団協傘下の (音楽に限らない) 団体宛に広範に分配されていました。このように団体宛に分配されていた理由の一つには、当初の徴収金額が現在とは比較にならないくらい少額で、今日のように実演家個人に分配するには、非現実的だったこともありますが、その主たる理由は、何と言っても広範な実演家団体への分配とすることで、機械的失業 (技術的失業) に対する実演家全体への補償という立法趣旨を満たすことでありました。
その後、この二次使用料の徴収額も年を追うごとに増え、更に、MPN が収集した膨大な実演履歴データに加え、以前からの蓄積データ等も含めると、この「商業用レコード二次使用料」の実演家個人への分配が可能な状況へと変化したのです。立法当初は、徴収額も微少であった為、個人への分配は非現実的でありましたので、実演家団体を通じて広く実演家全体への補償ということで何ら問題とはなりませんでした。しかしながら、その後の変化を見れば、著作権法第九十五条が、如何に「機械的失業」 (技術的失業) に対する実演家全体への補償という立法趣旨であったとしても、第一項の条文は、明らかに「当該実演に係る実演家」つまり放送に使用された CD などの録音に参加した実演家にその権利があると解釈すべきであります。
1999 年、芸団協・CPRA は、それまでの部門別・団体分配を廃止して、一部を共通目的基金とし、残りを全て当該実演家個人宛に分配することとしました。これが、現在 MPN の著作隣接権報酬分配明細にある「商業用レコード二次使用料」の分配です。
かつては権利者団体とされる団体に多額の二次使用料等が団体分配として分配されていました。
それらの団体が著作権法第九十五条の立法趣旨に充分沿えていたかどうかなど、今となっては詮索する意味すらも薄れていますが、とにかく私達は多くの実演家の仲間 (権利者) たちの顔を思い浮かべ、団体の壁を乗り越えて、この権利処理機構 (MPN) を起ち上げ支えてきました。
著作権法第九十五条 (商業用レコード二次使用) の立法趣旨に「機械的失業」の救済の考え方があり、徴収した二次使用料の一部を共通目的使用として立法趣旨を満たしつつ、レコーディングに参加した実演家に対し使用料を分配することでバランスをとっているこの制度は、今後どの様な方向に向かうのでしょうか。
また最近、商業用レコードの放送使用に対し、全放送使用データを抽出する動きがあるようですが、もし仮に全ての使用データとともにレコーディングに参加した実演家が全て明らかになったとして、次に待っているものは ?
等々、まだまだ多くの課題を抱えたままこの制度は運用されています。
冒頭にも書きましたように、「商業用レコード二次使用料請求権」は、法解釈上も運用上も極めて複雑・難解・厄介な権利であり、説明が少々雑駁となってしまったことをお許しください。